50MHzDXの設備と情報
※ 本記事はCQ ham radio 2006年9月号に掲載された記事に一部加筆したものです。
2006年の初夏にオープンしたWそしてEUは例年になく多数の局が入感して、さらにWでは4、5、EUではGやGM、EA、CTまで入感するという かつて無いオープンでした。サイクルボトムでありながらあれだけのDXの入感はいまだ信じられないものです。
しかしながら信号は決して強いものではなく、設備と時間にどれだけ自分の持てるものをあてがったかで、QSOできた人、できなかった人の差が ついたようにも感じます。ここでは私の50MHzの設備と情報収集について記しています。どちらも世の中の技術の進歩やインターネットの更なる 普及と発達で来年はもっと良い設備そして情報収集の手段が現れるかもしれませんので、それらにも今は期待しています。
2006年初夏W・EU大オープン...50MHzDXQSOのための設備と情報収集
どのような設備があればQSOできるのか
今回の初夏のW、EUオープンの信号のほとんどが強力なものではありません。 サイクルピーク時のF2層伝播のような強い信号が期待できない、非常に伝播損失の多いオープンです。 輪を掛けて大陸からの特有のバズも非常に邪魔なものとなります。
相手となるWやEUの局でもS9まで振ってくる局はEMEにも積極的なビッグガンといわれるごく少数局で1kWから数kWの出力、 アンテナも8ELEの2列2段あるいは10ELEスタックかそれ以上の超大型の設備を構えた局だけです。 私の設備は1kWに22mHの仰角ローテーターつきの10ELEシングルですが、これでもほとんどのQSOが 「なんとかできた」という感想を持っています。
送信電力だけでなく受信能力(感度だけでなく、 アンテナのビームパターンを鋭くしてバズなどを受信しにくくするなど)にも十分気を配ることが必要なオープンだと考えています。
私の設備は具体的には次の通りです。
- アンテナはクリエイトデザイン社製の10ELE八木CL610Aをそのまま使用し地上高22mH
- アンテナの直近にはHEMTを使用した市販の受信プリアンプ
- プリアンプの切替リレーは東洋通商のCZX3500という大型の同軸リレーを使用
- 同軸ケーブルは前記プリアンプからシャックまで12D-SFAを45m長
- トランシーバーはMARK-V FT-1000MP+FTV-1000+VL-1000(出力は1kW)
この設備が今私のできる最大限のものですが、今後も 少しずつ見直してさらに納得いく設備に改めていこうと考えています。下記の写真が私のシャックです。

【写真1】筆者のシャック。MARK-V FT-1000MPを中心にした構成...ローテーターコントローラが2つあるが、左は通常の方位(東西南北)用、右が仰角用。

【写真2】テーブル横のラック。上からDRAKE社製受信機R8B、 アンリツ製スペクトラムアナライザMS2601B、
YAESU製の50MHz用トランスバーターFTV-1000、同社製リニアアンプVL-1000。
受信機R8Bは35MHzから54MHzを受信できるオプションのコンバータを内蔵しており、46MHz、48MHz、49MHzなどのTV信号受信用に使っている。
(FTV-1000では50MHzから離れた周波数に対しては受信性能(感度)が落ちるため)スペクトラムアナライザも普段はR8Bと同じ目的で使用している。
写真3のR&K社の2分配器(1~150MHz)を使い、受信機R8Bとスペクトラムアナライザに分配している。

【写真3】受信機R8Bの背面に取り付けてある2分配器PD2(R&K社製)。
2分配するので各々3dBレベルは落ちるが微弱信号を受信する目的ではないので問題なく利用できる。
ところでJAで標準的な設備と言われているシングルの6ELE八木に100Wの設備でQSOできないかというと、そういうことも無いと考えています。 前述のビッグガンと呼ばれる局とのQSOは十分可能だろうと思います。 実際、私に届いたQSLなどに記してある設備をみると5ELEに100WというEU局が何局かありました。
それでも「Esマルチホップ」という言葉や、国内のEsシーズンに重なっていることからはEsの一種で、 信号もみな59+ととらえがちですが、全く別の伝播と考えていたほうが無難だろうと思います。 非常に短時間しか聞こえない、地域性もあり同一エリア内でも聞こえる聞こえないがはっきりするくらいのときもごく普通にあります。 呼んだはいいが、スタンバイしたら相手がまったく聞こえない、ということも普通に起こります。
QSOを成功させるには出ているとわかった周波数を我慢して聞きつづけ、 QSOに適したタイミングを見極めてコールすることが必要だろうと考えています。 この伝播はF2層との複合型である、太陽活動の微妙な変化が影響しているなど諸説はありますが、 明確に解明された伝播でないことは確かです。今後、アマチュアによる電波伝搬の研究が進むことで徐々に解明されていくことを期待しています。
※アンテナの仰角可変について何度か触れていますが、私は2005年に6mでEMEを試みるために仰角ローテーターを10ELEに取付けました。 ところが今回のオープンでは想定外の活躍を十二分にしてくれたと思っています。 写真4が筆者のアンテナが仰角0度(水平)のときのものです。写真5が仰角15度のとき、写真6が仰角30度のものです。
QSOのほとんどが10~20度の仰角をつけた状態でQSOしています。また25度、30度といった角度でもっとも信号が良好に聞こえ QSOしたことも何度かあります。 仰角15度といいますと、仮に反射する電離層がEs層として地上100kmにあったとすれば、 正割の法則によりわずか750km程度の距離の局とQSOできる角度です。 15度という角度で8000km以上離れたところの局とQSOするのですから原状では不思議としかいいようがありません。 写真7はアンテナ直下の受信プリアンプと仰角ローテーターです。



【左から写真4・5・6】
【写真4】下が6mの10ELE八木(クリエイトデザイン社CL610A(ブーム長は13.3m))、仰角は0度。
上のアンテナはクリエイトデザイン社の214A(14MHzと21MHzのデュアルバンダー)
【写真5】仰角15度のとき。見た目にも上方に向いているのがわかる。多くのEUオープンはこの程度の角度でQSOできた。
【写真6】仰角30度のとき。この角度でもEUとQSOできている。見た目にもかなり上方に向いているのがわかる。
HFのデュアルバンダーが4m上に設置されているため、6mの10ELE八木の仰角は最大45度までしか傾けられない。

【写真7】アンテナの受信プリアンプと仰角ローテーター:受信プリアンプは樹脂製防水ケースに入っている。
また仰角ローテーターはクリエイトデザイン社製のERC5A。このクラスの仰角ローテーターを使用しないと6mの10ELE以上は仰角可変が難しい。
この一連のオープンのメカニズムを解明するのに仰角に関してのデータがどの程度役立つかはわかりませんが、 太陽活動最盛期などのF2層伝播と比較すると、先にも書きましたが明らかに上方から電波がきているという印象をもっています。 また相手が弱くなったときに仰角を変化させるとまた強く入感する、ということも経験しています。
図1にフリーソフトMMANAを使用してCL610Aを地上高22mで仰角0度の状態でシミュレーションしたビームパターンを参考に示します。 アンテナを物理的に上に向けると、概ね垂直パターンはその角度に追随する形で仰角が変化することは想像できます。 しかし、仰角パターンは地上高や地上の誘電率などによって変化することも念頭においておく必要があります。 伝播経路などがある程度明確になるまでは、はっきりしたことはいえませんが 私、およびすでにEMEをされている方や仰角可変に興味をもたれている局が仰角ローテータを取り付けて受信の変化を体感されているようです。
EMEでもいわれておりますが、打ち上げ角の低い伝播は、アンテナから電波が輻射されたあと、大地反射利得も加わるため、 利得はアンテナ単体の絶対利得より大きくなるといわれています。 しかしながら今回のように20度あるいは30度といった仰角をつけたアンテナでは大地反射利得は期待できなくなるはずです。 にもかかわらず良く聞こえる(Sがあがる、あるいはバズやノイズが減って、信号が浮かび上がる) という状況を体感できたことをここでは書かせていただきました。
興味のある方はぜひ一度仰角を可変させてこういったオープンにトライされ効果や意味を検証していただければと思います。

【図1】50MHz10ELE八木CL610Aを22mHでビームパターンをシミュレーションした図(フリーソフトMMANAを使用)。
左が水平パターン、右が垂直パターンを示す。
実物のアンテナはラジエータがフォールテッドダイポールだがこのシミュレーションでは通常のダイポールとしている。
このためインピーダンスが50オームから離れた(VSWRが高い)値となっている。
話が逸れますが6mで国内のQSOも楽しむ私としては仰角が可変できることで、 従来多エレメントで地上高が高いと不利であるといわれた近距離Esでも存分に楽しむことができました。
情報収集
何よりワッチすることが大事であることは言うまでもありませんが、 何時、どこが聞こえるかが掴みにくいため、良質かつ信頼できる情報の収集が6mDXQSO成功の鍵を握っていると考えています。 クラスターを見ることも情報収集の1つですが、それ以外に私が行っていることを紹介します。
(1) 海外のチャットにログインする
一連のオープンはいつも決まった時間にあるわけではなく、ましてやオープンが平日の昼間だと、 仮に伝播経路が形成されていても相手がいないとQSOには至りません。
相手のWやEUに気付いてもらおうと筆者は積極的にCQをだしたりもしますが、 これも相手がワッチしていて初めて気付いてもらえるものですので効果は限定的です。 現在はwebクラスターが発達しており、今どこの局がどの周波数で聞えているかといった情報は、 インターネットにつながっているパソコンがあれば誰でも知ることができます。 しかしより詳細な情報を得ることが6mでDXQSOを成功させる秘訣であろうと考えています。
その点からみるとwebクラスターは情報量が限られたものですので、前述の日記にも幾度か記載していますが 海外のチャットにログインして情報を得ることが非常に役立ちます。 海外のチャットで情報交換するという手段は50MHz帯だけでなく、トップバンド(1.9MHz帯)などでもすでに利用されているようです。 海外のチャットですので英語が主体ですが、電話で話をするわけではありませんので何か尋ねられて単語が分からなくても辞書をひく時間は十分あります。 もちろんチャットですからログインして人の会話を聞く(見る)だけではなく、積極的に挨拶し、会話に参加して情報交換をすることをお勧めします。
私はON4KSTが運営するチャット(図2参照) およびW4TRHが運営するDXers.info(図3参照)にログインしています。 いずれもログインする本人のコールサイン、グリッドロケーター、名前などを登録してからのログインとなります。
チャットではコンディションやQRVのリアルタイムな情報だけでなく、スケジュールの打ち合わせ、 ペディションの情報やQSLカードのインフォメーション、電波伝搬についての議論やRIG、 リニアアンプ、アンテナについての技術的な会話など非常に多義にわたり行われています。 QSOできなくてもチャット上で友人になりうることもあるかもしれません。
チャットは掲示板と違い画面は次々流れて消えてゆきますので、その場に居合わせないと情報を得られないこともありますが、 IK0FTAによるHV0AのQRV情報はまさにチャットでIK0FTA本人が前日に公開した情報でした。 さらに当日はIK0FTA本人が「今からHV0Aのシャックに行く」とチャットに言葉を残して出かけていったという大変タイムリーなものでした。

【図2】ON4KSTチャット画面:チャット以外にクラスタ、ログインしている局も表示されている。
チャット画面上でクラスターに直接スポットできる。また画面の構成は各自で任意に設定でき、太陽活動なども加えることができる。

【図3】W4TRHチャット画面:ON4KSTチャット同様、クラスターや太陽活動の状態も表示しているほか、
チャット画面から直接クラスターにスポットできる。
(2) 大陸からのTV放送の電波を利用する
ロシア、中国、その向こう側に位置する中央アジア各国、ヨーロッパではTVの映像信号が48.25MHz近辺、 及び49.75MHz近辺に集中して存在しています。 これらの電波を指標することは大変有効で、すでに多くの方がRIGのメモリーチャンネルに登録し、活用されていることと思います。 しかしながら上記のように周波数が集中・あるいは同一であるがために、 どこからの電波なのか聞き分けできないのも実態です。 このような場合は1周波数だけのTV信号で判断するのではなく、複数の組合せでオープンしている地域をある程度絞り込むことができます。
写真8に49.750MHz±2.5kHzのTV画像信号をスペクトラムアナライザで見た状態を示します。 また写真9には48.250MHz±1kHzの信号をスペクトラムアナライザで見た状態を示します。 いずれもアンテナは10ELEがつながったときのものです。

【写真8】49.750MHz±2.5kHz(横軸は500Hz/div)をスペクトラムアナライザで見た画面。
わずか5kHzの中にいくつものTVの映像信号が確認できる。
各々のキャリアは画像の変調がかかっているため周波数偏移が広く、
スイープするごとにピークの周波数がずれて測定される。
この画面はRBWを30Hzに設定(30Hz帯域のCWフィルタで受信している状況を想像するとイメージしやすい)している。

【写真9】48.2500MHz±1kHz(横軸は200Hz/div)をスペクトラムアナライザで見た画面。 中東からのTV信号と思われるキャリア(センターの2山の右)と北朝鮮の短波放送の第5高調波(センターの2山の左)の
2波がほぼ同一周波数に見ることができるがRBWを30Hzに設定することで写真のように2つ(2山)に見分けることができる。
またローテータでアンテナを回し強力になる方位を知ることや、遠方からの場合はQSBが深いなどの特徴をつかんでおくことでも、 ある程度絞込むことができます。PA1SIXにより公開されているロシアとヨーロッパのTV放送の周波数と送信場所のグリッドロケータの地図が大変便利ですので一度ご覧になることをお勧めします。(図3を参照)

【図3】PA1SIXが公開しているロシアやヨーロッパのTV映像信号の送信場所がグリッドロケータでわかる地図:赤い四角に送信所があり、
画面左側に周波数と送信電力が示されている。
チャットとは少々離れますが、ON4KSTが運営するチャットでは図4のリアルタイムで伝播状況がわかる画面をチャット画面に組み入れることができます。 この画面は単体でも見ることができます。 内容はクラスターにスポットされた局、スポットした局間が地図上のショートパス経路でリアルタイムに結ばれていくというものです。 時間経過とともに赤、青、緑と変化していきますが、現在どのあたりがオープンしているかの目安になります。

【図4】ON4KST・PA1SIXが公開しているプロパゲーションモデル。
クラスターにスポットされた局間をリアルタイムに(5分ごとにリロード)線で結んでくれる。
最初は赤、時間経過とともに青・緑と線の色は変化する。
クラスターの文字列を追いかけるよりオープンの様子を把握しやすい。
ヨーロッパでは四方を多くの国にそれぞれ囲まれていますので、 こういった視覚に訴えたもののほうがクラスターの文字を追いかけるより効率が良いのでしょう。 ヨーロッパの局は非常に多く利用しているようです。 もちろんJAからもヨーロッパの大きなオープンがあれば、 おそらくJAまたはヨーロッパの局からクラスターに多数スポットがあると思いますので、同様に利用できると思います。
(3) 前日までの入感データを分析する
電波伝搬は太陽活動が影響していれば27日周期で同様のコンディションが巡ってくるという定説を利用したり、 あるいは過去の入感したエンティティや前日までの入感時間などをじっくり分析することで予測を立てることも不可能ではないと思います。 さらに太陽活動などとの相関を綿密に調べることも面白いのではないでしょうか。
クラスターには多くのQRVデータなどが連日スポットされますので、こういったデータを蓄積することも大変貴重な資料となります。 過去の状況を知ることは大変有用な情報となります。 しかしながら今から集めようとしても簡単には集めることは困難です。CQ誌で過去50MHz帯のエディターを勤められた JA1RJU小笠原OM、JR2HCB水谷OMのホームページでは貴重な過去の入感記録が何年分も公開されています。 ぜひご覧になることをお勧めします。 特にJA1RJU小笠原OMのHPには1977年に始めて夏場のEsマルチホップで北米がオープンしたドキュメントがあり、一読をお勧めします。
まとめ
私は1996年ごろからほとんどQRTしており2003年にアマチュア無線を再開したため、 サイクル23のピークを経験できませんでしたが、2006年初夏のWとEUのビッグオープンは忘れることのできない経験となりました。
サイクル23を終えてDXerがみなHFへ行ってしまい閑散としているともいわれていますが、 50MHz帯はサイクルボトムであるこの時期でもこういった解明されていない伝播でDXQSOが楽しめる非常に魅力あるバンドです。
前述の通り伝播損失の多いオープンですので簡単な設備で今回のようなオープンを堪能できるものではありませんが、 多くの方にこのマジックバンドの魅力を味わっていただければ幸いです。 また今回のオープンや過去のオープンに関するQSO実績、設備等に関する貴重なデータを提供いただきました 下記の皆様にこの場を借りて御礼申し上げます。
JA1KAW局、JA1RJU局、JM1IGJ局、JN1JFC局、JP1LRT局、JE2XBY局、JG2BRI局、JR2HCB局、 JF3MYA局、JH4ADV局、JN4MMO局、JR6EXN局、JA7QVI局、JA7WSZ局、JL8GFB局、JH0RNN局
参考文献
- CQ ham radio別冊 電波伝搬ハンドブック(CQ出版社)
- CQ ham radio別冊 6m HAND BOOK JR3HED西原寿一著(CQ出版社)
- CQ ham radio 2002年2月号特集(CQ出版社)
